ホッキョクウサギ日誌

なかにしけふこのブログ。宗教学と詩歌文藝評論と音楽と舞台と展示の話など。

宝塚歌劇『アウグストゥス』 まだ間に合ってほしい予習アイテムリスト

宝塚歌劇花組公演で『アウグストゥス 尊厳ある者』(田渕大輔作・演出)が上演されるとのことで、名古屋大学の川本悠紀子さんからのお誘いで予習マテリアル紹介の連続ツイートをいたしました。
ところが、緊急事態宣言発令で宝塚大劇場での上演が中止になってしまいました。

kageki.hankyu.co.jp
宝塚大劇場千穐楽無観客公演のライヴビューイングとリアルタイム配信が5月10日にあるとのことです。

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東京宝塚劇場公演の無事開幕を祈って、改めて予習アイテムリストを収録します。
みなさまのお役にたてましたら幸い。

 
【まず人間関係をおさえよう】
Wikipediaコトバンク参照で結構ですので、登場人物の人間関係は最低限おさえておくと鑑賞がとってもスムーズになります。横文字苦手とおっしゃる方は図解を作ると楽になるかも。そこからぜひ史料や概説書に進んでみてください。チケットお迎え激戦ジャンルでの丸腰鑑賞はもったいないです。

【とりあえず一冊コース】
青柳正規『皇帝たちの都ローマ』(中公新書)は共和政末期から帝政期の都市計画と帝室と政治の関与の状況がよくわかる一冊。国立西洋美術館館長在任時に古典考古学関係の大規模企画展も手掛けた古代ローマ美術史・古典考古学の大御所による概説書です。アウグストゥスは最重要人物。都市ローマのモニュメントがいかにローマ帝政プロパガンダと結び付いていたか。その様相も明晰に伝えます。

 通史としては、講談社学術文庫の「興亡の世界史」シリーズ所収の本村凌二地中海世界ローマ帝国 』(講談社学術文庫、2017年、電子版あり) を読んでおくと見通しが出来ます。本村先生のご著作では『教養としてのローマ史の読み方』はもっと読みやすい。

教養としての「ローマ史」の読み方

教養としての「ローマ史」の読み方

 

宝塚歌劇の大きなみどころは親密な人間関係の描写でもあります。本村凌二先生の著作からもう一点、『愛欲のローマ史 変貌する社会の底流』(『ローマ人の愛と性』(講談社現代新書、1999年)を講談社学術文庫に再録、2014年、電子版あり) をおすすめします。決して甘くはないローマ人の性愛事情や家族史事情の話は踏まえておいて損はありません。

小中学生向けの学習漫画もゆめあなどるべからず。
南川高志先生の監修による『小学館版学習まんが 世界の歴史 3 ローマ』(作画・新井淳也、小西聖一、編集協力・山川出版社、2018年、電子版あり)と羽田正先生の監修による『角川まんが学習シリーズ 世界の歴史 3 秦・漢とローマ──古代の大帝国 紀元前二〇〇~紀元後四〇〇年』(KADOKAWA、2021年、電子版あり)が出そろいました。ローマ特化型とユーラシア同時代史横断型(比較史型)、どちらも魅力的な企画です。リアリズム寄り作画も好感触です。

 

【史料】
研究文献ではなく、史料を読み込んで書かれた台本だとすれば、おそらくスエトニウス『ローマ帝国史』とプルタルコス『対比列伝』(プルターク英雄伝)とユリウス・カエサル『内乱記』、『神君アウグストゥス業績録』に準拠しているのでしょう。
一点だけ読むならスエトニウス『ローマ帝国史』をお勧めします。かなり「うそーん」と思うようなゴシップ満載で、史料としての信憑性もやや落ちるとされていますが、当時の人がスキャンダルだと思う事例の感覚もわかって面白い。
ローマ人の倫理観や道徳観はわりと質実剛健です。
スエトニウスの描く頽廃的な古代ローマのセレブリティの愛欲模様は、ユウェナーリスの風刺詩やラテン語詩白銀時代の恋愛詩と並ぶ、後世の人にとっての「愛欲のローマ」像の原像の一つではあるでしょう。
なお、「ブルータスよ、お前もか」に近い台詞はプルタルコス『対比列伝』に出てきます。『対比列伝』は京都大学学術出版会・西洋古典叢書版でぜひ。
ローマ皇帝伝 上 (岩波文庫 青 440-1)

ローマ皇帝伝 上 (岩波文庫 青 440-1)

 
ローマ皇帝伝 下 (岩波文庫 青 440-2)

ローマ皇帝伝 下 (岩波文庫 青 440-2)

 

 

【映像】
テレビドラマで予習するなら、HBO・BBC共同制作の歴史ドラマシリーズ『Rome』があります。共和政末期から帝政初期を詳しく描写。考証もよい。日本語字幕版はAmazon Primeで見られます。
BBCの歴史ドラマ『ザ・ローマ 帝国の興亡』シリーズもわりと面白かった。こちらでは帝政盛期以後の叙述も。Amazon Primeで日本語字幕版が見られます。
どちらもDVDも出ています。
ROME[ローマ] コレクターズBOX [DVD]

ROME[ローマ] コレクターズBOX [DVD]

  • 発売日: 2008/03/19
  • メディア: DVD
 
ザ・ローマ 帝国の興亡 DVD-BOX

ザ・ローマ 帝国の興亡 DVD-BOX

  • 発売日: 2008/07/02
  • メディア: DVD
 

 

【神々】
「神々」が多数出るようです。
ローマ宗教史は非常に複層的な現象で、時間軸に沿った変化や地方的な多様性をあまさず描くのがなかなかむずかしい。残念ながら日本語文献でこれ一冊で充分といえる概説書がありません。宝塚歌劇アウグストゥスの「神々」が、ジョルジュ・デュメジルの「三機能説」に沿った神格なのか、アウグストゥス即位後のプロパガンダに準拠するものなのか、バロックオペラのギリシア・ローマものにいそうなデウス・エクス・マキナなのかは、実際に見てみないとなんともいえませんが、楽しみです。
20世紀フランスの神話学者ジョルジュ・デュメジルの「三機能説」に沿った神々なら祭祀・軍事・農耕の組み合わせでユピテルマルス・クィリヌスの三柱が強調されるはずです。ちくま学芸文庫からかつて出ていた『デュメジル・コレクション』(全4冊)が版元品切れで、古書でしか入手できないのが非常に残念です。筑摩書房さま復刊か電子化をぜひともお願いいたします。
もし『デュメジル・コレクション』のどれか一冊を読むならまず第3巻『ローマの誕生』を古書で。「三機能説」と都市の定礎を扱っています。今回はミシェル・セールジョルジョ・アガンベンの都市ローマ定礎論まで読む必要はないです。
田渕大輔先生の台本がアウグストゥスの帝国プロパガンダの形成史を読み込んだ作品であれば、アウグストゥスが心酔した芸術と若さと太陽の神アポロとローマ建国の祖につらなるトロイア戦争の英雄アエネーアースが強調される可能性があります。
作中に弁論家キケローとアウグストゥスの腹心の部下マエケナスが出るのも要注目です。マエケナスが支援を惜しまなかった詩人ウェルギリウスの代表作はアエネーアースの一代記を描いた叙事詩アエネーイス』。まさにアウグストゥスの帝国プロパガンダに大きく貢献した作品です。岩波文庫泉井久之助訳も20世紀の西洋古典日本語訳の金字塔ですが、注解つきでより新しい平明な訳文で読むなら西洋古典叢書版(高橋宏幸訳、京都大学学術出版会、2001年)でぜひ。5000円強します。

 

アエネーイス (西洋古典叢書)

アエネーイス (西洋古典叢書)

 

 そしてマエケナスの支援を受けたもう詩人といえばホラーティウス。彼の『歌章』に収録された「世紀祭の歌」にも帝国プロパガンダを支える内容が出てきます。
西脇順三郎の教え子の西洋古典学者・藤井昇先生による『歌章』の翻訳(現代思潮社・1973年)があります。古書で入手可能です。『歌章』の抜粋が呉茂一先生の古代ギリシア・ローマ詩アンソロジー『花冠』で読めます。呉茂一先生の訳業は20世紀の日本語世界における西洋古典受容史を語る上では避けては通れません。古今東西そして都鄙の詩語に通じた雅俗混淆体で古典ギリシア語やラテン語を日本語に移すという余人をもって代え難い技芸の結晶です。こちらはまだ新本で入手可能です。マエケナスから支援を受けた抒情詩人・プロペルティウスの恋愛詩の翻訳も収録されています。

ギリシア・ローマ抒情詩選―花冠 (岩波文庫)

ギリシア・ローマ抒情詩選―花冠 (岩波文庫)

  • 発売日: 1991/11/18
  • メディア: 文庫
 

劇中のキケローとマエケナスが神々について語り合っていたら面白いなあと思います。

史料を読み込むタイプの作家なら、キケロ『神々の本性について』のほか、ウェルギリウス叙事詩アエネーイス』、オウィディウス『祭暦』『変身物語』やホラティウス『歌章』より「世紀祭の歌」への言及を出すところでしょう。
キケロー『神々の本性について』は岩波書店キケロー著作集第11巻(2000年)に収録されています。山下太郞先生の明快な訳文で読めます。残念ながら岩波文庫でシングルカットされていません。Amazonではべらぼうなお値段がついていますので、図書館か古書でぜひ。
神々がたくさんでてくるそうなので、とりあえずオウィディウス『変身物語』はおさえておきましょう。ギリシア神話のローマ化の視点に立つ再話(専門用語ではローマ化、ローマナイゼーションといいます)でたいへん面白く、後世への影響も大。岩波文庫版(岡道男訳)と西洋古典叢書版(高橋宏幸訳)を推します。

 

変身物語 (1) (西洋古典叢書)

変身物語 (1) (西洋古典叢書)

  • 発売日: 2019/05/31
  • メディア: 単行本
 
変身物語2 (西洋古典叢書)

変身物語2 (西洋古典叢書)

 
オウィディウス 変身物語〈上〉 (岩波文庫)

オウィディウス 変身物語〈上〉 (岩波文庫)

 
変身物語〈下〉 (1984年) (岩波文庫)

変身物語〈下〉 (1984年) (岩波文庫)

 
オウィディウスの宗教詩といえば『祭暦』。ローマの祝祭民俗誌の要素もある韻文です。かつて国文社の叢書アレクサンドリアからハードカヴァーが出ていました(高橋宏幸訳、1994年)。版元品切になって久しく、文庫化を待望しています。 筑摩書房さま平凡社さま如何でしょう?
とりあえずローマ宗教が気になっていてがっつり勉強したい方には、『舌を抜かれる女たち』の著者、メアリ・ビアド先生も執筆陣に加わっているこの概説書をお勧めしたい。20年ほど前の著作ですが、これはソリッドでよい本です。電子版もあります。
Mary Beard, John North and Simon Price, Religions of Rome, 2vols., Cambridge UK: Cambridge UP, 1998

 

Religions of Rome

Religions of Rome

  • 作者:Beard, Mary
  • 発売日: 1998/07/09
  • メディア: ペーパーバック
 
Religions of Rome

Religions of Rome

  • 作者:Beard, Mary
  • 発売日: 1998/07/09
  • メディア: ペーパーバック
 

 メアリ・ビアド先生によるローマ通史本、『SPQR』も邦訳が出ました(宮﨑真紀訳、亜紀書房、2018年、全2冊)。こちらもビアド節ともいうべき闊達な洞察が冴える素敵な本です。前提となる基礎知識をある程度お持ちのほうが楽しめるでしょう。

SPQR: A History of Ancient Rome (English Edition)

SPQR: A History of Ancient Rome (English Edition)

 
SPQR ローマ帝国史I――共和政の時代

SPQR ローマ帝国史I――共和政の時代

 
SPQR ローマ帝国史II――皇帝の時代

SPQR ローマ帝国史II――皇帝の時代

 

ビアド先生の『舌を抜かれる女たち』(原題=Women and Power: A Manifesto (London, Profile Books, 2018; 邦訳=宮﨑真紀訳、晶文社、2020年)は、西洋古典文学(古代ギリシア・ローマ文学)に根深い女性蔑視が、現代のアカデミズムやファンダムにいたる受容過程においていかに研究者や読者の内なる女性蔑視を正当化し、さらに根深いものとしてきたかを語る講演集です。ビアド先生のご著作に関心をもたれましたら、また、こちらのブックリストになぜ女性の著者が少ないのか、と思われましたら、こちらもぜひご一読ください。英語版・日本語版ともに電子版もあります。

Women & Power: A Manifesto (English Edition)

Women & Power: A Manifesto (English Edition)

 

 

舌を抜かれる女たち

舌を抜かれる女たち

 

アウグストゥスを単体で予習したい人向け】
バーバラ・レヴィック、マクリン富佐訳『アウグストゥス 虚像と実像』 (叢書・ウニベルシタス、法政大学出版会、2020年)
7000円弱ですががっつりと評伝です。ぜひこちらを。
バーバラ・レヴィック先生は帝政初期ローマ史研究の重鎮、帝政初期の皇帝たちの伝記も各種上梓しておられます。
【がっちり予習したい人向け】
ロナルド・サイム、逸身喜一郎他訳『ローマ革命――共和政の崩壊とアウグストゥスの新体制』(岩波書店、全二冊、2013年)
ローマ政治史研究の泰斗、ロナルド・サイムの代表作。2冊で2万円します。図書館でぜひ。
共和政のなかの寡頭政治から帝政への移行が都市国家ローマの政体に大きな変革をもたらした。その様相をつぶさに描く重要文献です。とりあえずいまアウグストゥスを描くなら必読でしょう。幸いなことに日本語で読めます。
宝塚史劇のファンで史学科に進んだそこのあなたにはぜひおすすめします。
【宝塚の過去上演作品】
宝塚歌劇の過去の上演例ではシェイクスピアの翻案も。
共和政期を扱ったシェイクスピアのローマ史劇では、『コリオレイナス』『ジュリアス・シーザー』『アントニークレオパトラ』の3作をぜひおさえておきましょう。白水社Uブックスシェイクスピア全集版(小田島雄志訳)か、今回完結したちくま文庫松岡和子個人全訳全集版をおすすめします。
シェイクスピア作品の翻案や現代演出版は若手から大ベテランのプロダクションまで多種多様な上演機会に東京でも接することが可能です。
NTLiveやITAなど、海外カンパニーの配信にも注目されるとよいかと思います。
先日ITAの配信で見たイヴォ・ファン・ホーヴェ演出『ローマ悲劇』は『コリオレイナス』『ジュリアス・シーザー』『アントニークレオパトラ』をオムニバス形式で繋ぐドキュメンタリー・ニュースショー形式で上演していて凄まじかったです。いずれ感想をupしたいと思います。
宝塚歌劇では次の先行上演例があります。
1986年花組公演『真紅なる海に祈りを』はシェイクスピアアントニークレオパトラ』の翻案で、小田島雄志訳に準拠。
柴田侑宏脚本・演出。朝香じゅんユリウス・カエサル高汐巴アントニー、秋篠美帆クレオパトラ大浦みずきイノバーバス。『アントニークレオパトラ』は白水社シェイクスピア戯曲全集では1983年に刊行されています。
2006年月組公演『暁のローマ』はシェイクスピアジュリアス・シーザー』の翻案(木村信司脚本・演出)。轟悠カエサル瀬奈じゅんブルータス、霧矢大夢アントニー。新人公演では明日海りおアントニー登場。
今回も役名には英語読みの方がおられます。シェイクスピアのローマ史劇ものを意識しているのではないでしょうか。

宝塚で《ポッペアの戴冠》の翻案もやってたような気がするなあと思って検索しましたらネロのドラマが出てきました。
1998年星組公演『皇帝』(植田紳爾脚本・演出、石田昌也演出)。本公演は麻路さき引退公演。もちろんタイトルロールを演じています。オリジナル脚本で、《ポッペアの戴冠》の翻案ではありません。
宝塚でのローマ史劇上演は『クレオパトラ』(1918年(大正7年))が最古の上演例のようです。草創期からやっていたのか。もっとありそうですから、調べてみる価値があるかもしれません。

【追記・さかもと未明さんのアウグストゥス漫画について】

ところで、さかもと未明さんの漫画はどうなのか、というご質問をいただきました。

端的に言って人間関係、特に恋愛模様がコンテンツな人向けです。ストーリーテリングも当時の支配階層の恋愛と性愛を強調しすぎで、人物の絵が古代ローマではなくて、ヘレニズムの建築と服飾を受け入れてローマに倣う国家を打ち立てた東南アジアのどこかの架空の王国の人に見えるという最大の難点があります。それでも手っ取り早く予習をしたい人にはいいのかもしれません。私から積極的におすすめはしません。

 

【追記2・昏い神々は誰?】
 10日の宝塚大劇場千穐楽の配信をごらんになった川本悠紀子さんから「オクタウィアヌスアウグストゥスになったよエンドだった」「神々は黒装束でおどろおどろしい雰囲気、軍神マルスが出てくると予想していたので意外だった」「ウェスタ女神官(vestalis)が出てくる、しかも女神官長(vestalis maximaも出てくる)」との情報をいただきました。
 「おどろおどろしい黒装束」の神々はだれなのか。まず考えられる可能性としては、冥府の神々です。冥府の神々はまじない(呪術)のさいに召喚されます。この昏い神からはヘカテーも連想されます。夜と冥府に属し、ローマでは「十字路の神」として知られる神格で、帝政後期のイアンブリコス派新プラトン主義の私的神託(「神働術」)では、夜と月の女神としてアポロンとセットで召喚されます。
 もう一つ考えられる可能性としてはモイライ(運命の女神たち)ですが、彼女たちに黒装束を着せる描写はありうるでしょうか。ここはぜひ舞台の配信や映像を見て確認してみたいところです。
 死生観としての宿命論が色濃く存在する社会です。宿命と死と戦乱の影につきまとわれながらつねに選択の十字路に立ち、時には冥府の神々の力をかりてまじないをもよりたのむオクタウィアヌス像の印象を強める役割を託されているのでしょうか。非常に興味深い造型です。
 呪い板(呪詛板)と呪文についてはよい概説書が邦訳されています。呪い板を用いた呪術の実践のようすもわかります。

・ジョン・G・ゲイジャー、志内一興訳、『古代世界の呪詛版と呪縛碑文』、京都大学学術出版会、2015年

古代世界の呪詛板と呪縛呪文

古代世界の呪詛板と呪縛呪文

  • 発売日: 2015/12/11
  • メディア: 単行本
 

  ウェスタは竈の女神で、ギリシア世界のヘスティアに相当します。家庭では家内安全を願って主婦が祭祀を行います。古代ローマでは、この竈の女神の祭祀の存在意義を国家規模に拡大したウェスタ祭祀が行われていました。ウェスタ女神官に抜擢されるのは良家の少女で、幼年期から任にあたります。30年の任期中は独身・不犯を定められています。帝政期になるとほぼ生涯にわたって在任した女神官もいたことが知られています。
 帝政初期の事例について日本語で読めるものには、遠藤直子さんの論考「ローマ帝政初期のウィルギネス・ウェスタレス」があります。残念ながらオープンアクセスではありませんが、都道府県立図書館・大学図書館でレファレンスサーヴィスをかけられる方はぜひ論文のコピーとりよせ依頼をかけてみてください。

ci.nii.ac.jp 

欧語文献ではさしあたり
・Robin Lorsch Wiltfang, Rome's Vestal Virgins, London: Routledge, 2006
 を挙げます。電子版もあります。

Rome's Vestal Virgins

Rome's Vestal Virgins

 

 

 「ローマ革命」の帰結を描く物語のなかに登場する昏い冥府の神々や、竈の女神の女神官たち。意外でした。オールフィーメイルキャストでも不自然のない神格を登場させるために近年の研究動向もおさえた上でリサーチを重ねての選択と拝察します。
 劇中に出てくる「官報」はアクタ・ディウルナ acta diurnaのことでしょう。舞台美術・衣裳にも興味深い点がいくつもあったとうかがっています。ここはやはり自らの目で確認したい。舞台映像や配信を実見する機会があることを願ってやみません。