ホッキョクウサギ日誌

なかにしけふこのブログ。宗教学と詩歌文藝評論と音楽と舞台と展示の話など。

さにわライフ一ヶ月の所感

さにわ、といってもシャーマニズム系の宗教をはじめたわけではありません。
とうとう『刀剣乱舞』ゲーム版をはじめてしまいました。「62振一挙贈呈キャンペーンがきますよ、けふこさんの本丸にもかならずへし切長谷部さんが来ますよ」と背中を推されたしだいです。
これまでメディアミックス作品を見てきましたが、やはりじっさいにゲーム版をしてみてはじめてわかることがさまざまにありました。

ゲーム自体はきわめて堅実な育成ゲームです。作業効率上スマートフォン版で本丸を回していますが、マップ周回はまるでマニ車を回すよう、まるで歴史の呪いのかかった古戦場に浄祓と供養をほどこすかのようです。やはりやりこみ癖がある人はいちばんやってはいけないタイプのゲーム、だからこそ遠ざけていたのに。一挙に中規模講義サイズの「本丸」メンバーを個体識別しつつ偏りなく育てるのも、まじめに取り組むとなかなかに工夫を要します。
さまざまなタイプの美形揃いのキャラクターデザインと端正な風景描写と肉太な毛筆楷書体フォントを採用した文字表示が共存するヴィジュアルも興味深い。恋愛要素はゲームそのもののなかには出てきません。キャラクターが積極的に口説いてこないのは美点。「回想」や「内番特殊台詞」や「近侍台詞」で彼らの思い(?)を漏れ聞いてしまうこともあります。マップ周回や刀剣男士の「育成」に物語を発見するのはそれぞれのプレイヤー(さにわ)の想像力の役割でもあります。「それぞれの本丸ごとに物語がある」とは言い得て妙です。

初期刀は歌仙兼定、初鍛刀は五虎退、初太刀は燭台切光忠。現在「極修行」前の経験値上限(レベル99)に達しているのはへし切長谷部、歌仙兼定、山姥切国広です。いまの第一部隊にはへし切長谷部(入れ替えで歌仙兼定、山姥切国広)、燭台切光忠(入れ替えで骨喰藤四郎)、大包平と鶯丸、蛍丸(入れ替えで次郎太刀)、大倶利伽羅を入れています。歌会が開けそうなメンバーかもしれません。蛍丸には妖精ふうの愛嬌があります。詩歌人にとっての浪漫の対象である古今伝授の太刀はただいま育成中です。彼にも異界のものの風姿が感じられます。

小宮国春さんがキャラクターデザインを担当された美丈夫三振り、へし切長谷部大包平と大倶利伽羅はそれぞれにご本刃の特徴を反映して素敵です。なかでも織田信長から開明的な意識と暗い情念と舶来趣味を、黒田官兵衛・長政父子から智将ぶりと16世紀のキリシタン文化を浴びてしまったために、着崩した紫のバテレン装束風の外套を翻して底知れぬ愛と忠誠心の極北をめざすへし切長谷部には浪漫があります。ストラのかけかたが略式なのはご愛嬌として、彼の紫の外套の裏地の白絹の輝きも浪漫。2Dグラフィックで絹のすべらかな輝きを表現する映像技術に思わず息を呑みました。花火の景趣もよく似合います。あの正装のミッドナイト・パープルと夜空のミッドナイト・ブルーの諧調はすばらしい。
思えば弊本丸のへし切長谷部は序盤から強かった。「検非違使」(「時間遡行軍」と刀剣男士の双方にたちはだかる強大な勢力)をレベル8で倒してから続けざまに4回倒し、レベル70に達して歌仙と第一部隊隊長(「近侍」)の座を競って猛烈なデッドヒートをするに至って目が離せなくなりました。ロシアオペラの登場人物か君は。そういえば彼はなんとなく弾けそうな面構えをしている。手も大きそうだし体幹もしっかりしている。かつて私がピアノコンクールウォッチャーをしていたころ構想だけ作ったピアノ剣豪教養ユーモア小説「俺が弾く」時空なら、ラフマニノフを豪腕でハードボイルドにばりばり弾くタイプでしょう。歌仙がヴァイオリン弾きだったらブラームスのヴァイオリンソナタ第3番をお手合わせしていそうでもあります。
(ゲーム時空の太鼓鐘貞宗はそういえば若き日のラン・ランのような闊達な面構えをしている。台詞もたいへん前向きであかるい。「俺が弾く」時空ならさしづめ、幼少期を大陸東アジアですごしてアメリカに留学した天才ピアノ少年さだんちゃんでしょうか)

ゲーム版時空に登場した花火デートを想起させる「花火の景趣」や、バブルの時代の熱に浮かされたような恋愛至上主義文脈のにおいのする(ゆえ『我と汝』か!人格をもつ神的存在との交流をここまでポップに歌ってくれるとは!となどとつっこみをいれないと聴くに聴けない)ユーミン作詩作曲の懐メロ風にノスタルジックな新主題曲など、さまざまに人生の苦みを知ってしまった中年としては思わず立ち止まってしまう要素も運営の判断にはなくはない。石上神宮への新作刀奉献計画もいろいろな意味で非常に日本的だと思う。
しかし、ふだん視界のうちに存在しないことにしてくらしていた内なる「趣味」をこれほどに考えさせるゲームもないでしょう。刀剣男士はさすがソードのダイモーンぞろいで、陰湿なはかりごとにたけた宦官の佞臣のようなキャラクターがいないのが非常にすがすがしい。同時期にゲームをはじめた友人に「みやびな子しか育てたくないでしょう」と言われております。

なお、鍛刀ひとすじではなかなかお目当ての刀が錬成されません。弊本丸でへし切長谷部が鍛刀でようやく錬成されたのは開所後25日後でした。弊本丸の現在のこの第一部隊の構成も62振り一挙贈呈企画(と経験値3倍キャンペーン)あってこそ実現した陣容ともいえます。ありがたいことです。

刀剣本体を見るという新たな楽しみが生活に加わりました。輝くばかりにりりしい大包平質実剛健な美少年・厚藤四郎にはすでに東博でお目にかかりました。へし切長谷部さんご本刃にぜひともお目もじしたい。図版で見ても水も滴る美形です。福岡市博の「大福岡城展」に行けないものかと思っています。

言われなければわからないアトリビュートカラー洋裁についてはまた改めて書きます。