ホッキョクウサギ日誌

なかにしけふこのブログ。宗教学と詩歌文藝評論と音楽と舞台と展示の話など。

夏に見たもの 「共時的星叢:『風車詩社』與跨界域藝術時代」 (台中・國立台灣美術館)

こちらではたいへんごぶさたしておりました。
台中の國立台灣美術館の「共時的星叢」展を見ました。
映画《日曜日の散歩者》と関連する1920年代から1950年代始めまでの台湾の前衛芸術と日本語作家の軌跡を描く、素敵な展示でした。

constellation.ntmofa.gov.tw
〈日本語環境における欧州前衛芸術の導入に呼応して世界との連帯をめざす1920-30年代台湾の芸術家たち〉〈植民地支配への抵抗とプロレタリア芸術〉〈「南洋」を内面化する植民地芸術の形成と挫折と2.28事件以後〉の三部構成。広い空間を生かした動線設計も巧みです。《日曜日の散歩者》からの抜粋も第1会場・第2会場にインスタレーションとして配置されており、ヘッドフォンで音声を聞けるコーナーもあります。
各パートに台湾と日本の作家たちの詩と散文の重要作例が中文・英語対訳で展示されています。台湾出身の日本語作家の作品も中文に翻訳されています。対訳は日本語バージョンの原型をよく伝えていてわかりやすい。モダニズム詩は他言語に翻訳しやすいのかもしれません。
第一会場の前衛芸術のパートでは西脇順三郎の作品と西脇に師事した作家たちの作品が、西脇に師事した詩人のアルバム(乗馬服の西脇が学生たちと映っている写真も収録)や、エリュアールやブルトンと文通していた日本語詩人宛の彼らの書簡と合わせて展示されています(エリュアールの書簡の文体と筆跡がまさにエリュアールとしかいいようのない感じでたいへん嬉しい驚きを覚えました)。
作例のなかには「くそリアリズム論争」「芸術家の健康さ」など、現在の詩歌の状況に通じる課題を喚起するものも。台湾の民族主義的プロレタリア芸術が社会主義リアリズム演劇に学んだ築地小劇場スタイルを直輸入した経緯や、「内地」出身の作家主導の植民地芸術が「南洋」を内面化したのちに終戦後壊滅し、台湾の芸術が2.28事件以後の状況のなかで新たな模索のなかに放り出される経緯も作品を通して明確に把握できます。
会場では各セクションごとの出展品目録が中文版・英語版で配布されています。会場内の展示品には展示品番号だけがあわせて表示されています。展示品目録を見ないで回ると展示品が漂着物のたたずまいで見えてきます。中文版と英語版の両方で目録を必ず受け取って会場を回りましょう。
図録には総説と論考と会場にも掲示されている各セクションのリード文と代表作例が収録されています。日本からのものもあわせて出展点数も多く、会場でしか見られないものがけっこうありますのでみなさまぜひ台中へ。会期は9月15日までです。たっぷり時間をとって見ることをおすすめします。
台中駅・高鐡台中駅から美術館までのアクセスはタクシーが便利です。なお、國立台灣美術館のレストランはタピオカミルクティで知られる春水堂です。私もタピったことは言うまでもありません。お食事もおいしいのでぜひお立ち寄りください。
宗教学会の準備が大変じゃなかったらLCCでもいいからもう一度行きたいくらいです。
なお、《日曜日の散歩者》はDVD化されました。このさいぜひ予習復習のためにお求めください。