ホッキョクウサギ日誌

なかにしけふこのブログ。宗教学と詩歌文藝評論と音楽と手仕事と展示の話など。

大英博物館・「神々とともに生きる」展(Living with Gods: people, places, and the worlds beyond, British Museum, 2018年2月19日)

これからの博物館・美術館の宗教展示の可能性に注目しています。
ここで過去記事を再録しましょう。

British Museum(大英博物館)の宗教とマテリアルカルチャー展「神々とともに生きる」(Living with Gods: people, places, and the worlds beyond, 2017年11月2日ー2018年4月8日)を見ました。
https://www.britishmuseum.org/about_us/past_exhibitions/2018/Living_with_gods.aspx
トレイラーはこちら。 

youtu.be

BBC Radio 4のLiving with the Godsシリーズとの連動企画です。

www.bbc.co.uk

The Lion Man  ライオン・マン
Light, water, fire 光、水、炎
Sensing other worlds 異界を知覚する
Sacred places and spaces 聖なる場所と空間
Prayer 祈り
Festivals 祭り
The cycle of life 生の円環(人生のサイクル)Sacrifice 供犠
Coexistence 共生

のテーマごとに比較宗教的な視点から世界の諸宗教におけるシンボルと儀礼の利用の諸相をテーマ別にタイトにまとめた展示で、アップデートされた宗教学入門としても適切。「人の生き方や生活には宗教的な部分は必ずあって、それは必ずしも高尚な現れ方をしないかもしれないが、人間にとって欠くことのできない無視できない部分だ」という視点からマテリアルカルチャーの諸相を検討する意図が伝わります。
エチオピア正教の祭服・典礼用品も多数出展されており、キリスト教の複数性への言及として用いられています。南アジアとアフリカの諸宗教、イスラームユダヤ教への目配りは豊富です。
ロシア国立サンクトペテルブルグ宗教史博物館 http://www.gmir.ru/ からの出展品も各種ありました。

シベリアの民俗と日本の民俗にも注目してくださるのは嬉しい。 本展の図録には載っていませんでしたが、沿海州・ウリチの「おばあちゃんの精霊」人形が大変かわいい。楕円形の人形で、ジュート地の顔につぶらな瞳、ボディは赤地に水玉や花柄のコットンのパッチワーク。〈おばあちゃん〉は子供を守る霊。お食事をお供えしてお祀りするそうです(本展の図録には病気平癒の霊の家庭用厨子の図版が掲載されています。やはりつぶらな目が印象的な意匠の精霊人形が厨子に入っています)。
気になる日本の護符や宗教図像の展示ですが、かなり文脈の理解がおおらかです。神仏習合コスモロジー神道の「カミ」の概念、「モノ」に対するアニミズム的な信念について説明を加えるともっと理解が深まるはず、そこにはもっと細やかな意味合いがあるのに、と思わずつっこみたくなりました。これからの発信の課題を示唆してくださっていると考えましょう。
「対立と共生」のコーナーでは現代のイデオロギーの宗教にも言及があります。キリシタン禁制の高札が、社会主義リアリズムの指導者崇敬とならんで、抑圧されたものの復権のアイコンとしてのアンベードカル顕彰と、シリア難民問題慰霊アートや宗教的帰属を超えて共有される「聖性」のイメージを描くヴァーバル・アートの作例が同じコーナーで扱われています。もろもろ考えさせられます。
 
「生きられた現象」としての過去の諸宗教と現代の諸宗教のあいだの適切な距離感をはかろうとしているようでした。キリスト教の覇権を当然のこととする宗教史観の解体をはかる、ポストコロニアリズム以後の宗教展示・民俗展示の模索と拝察します。
博物館・美術館における宗教展示の模索には今後も注目してまいりたいところです。
 
なお、サンクトペテルブルク宗教史博物館のウェブサイトでは「沿海州・シベリアの民俗と宗教」の常設展の紹介がみられます(解説はロシア語)。http://www.gmir.ru/eng/exposition/vera/vera_sibir/
展示の手法が知りたいところですね。機会があればぜひ見に行ってみたいです。